枠からはみ出すサムライたち、狂言師と料理人

さいきん、とくに女性のあいだで落語がブームになっているらしい。
「イケメン落語家」がフィーチャーされたり、雑誌やテレビでぞくぞくと落語の特集も組まれている。 

実際、サブカル好きの友達に、「なんか面白い漫画ある?」ときいてみたところ、「『昭和元禄落語心中』ちょー面白い!」と返ってきた。
「落語の漫画〜!?、シブくない〜?」と半信半疑で読みはじめてみたら、これまた登場人物がイケメン美女ぞろい、落語を愛していないと描けないだろう、というストーリーにぐいぐい引き込まれ、久々に夜を徹して漫画を読んた。

しかし、同じ伝統芸能でも能楽となると、敷居はぐっと上がるのではないだろうか。
中学生のとき、課外授業の一貫でお能を一度みたことがあるけれど、高尚すぎてまったく理解できず、失礼ながら舟をこいでしまった。

そんな苦い思い出を上書きすべく、先日セルリアンタワーにある能楽堂へ足をはこんだ。

もちろん初心者の私が単身乗りこんだわけではない。都会の粋な遊びに精通しているキョーコお姉様に「パーティー感覚で狂言が楽しめる場所がある」と誘っていただいたのだ。

地下へ降り、「能楽堂」と書かれた入り口を進むと、細長いホールがあり、すでに多くの人がドリンク片手に会話を楽しんでいる。チケット(一般前売4.500円)にはドリンクが1杯がついてくるが、それとは別に、歴史と伝統のスコッチ・ウィスキー「オールド・パー」のスタンディング・バーがある。

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また、老舗料亭「金田中」の料理がキャッシュ・オンで楽しめるのも売りのひとつ。本日の演目にちなんだメニューの数々に、料理長のウィット(=だじゃれ)を感じる。

私自身、ふだんウィスキーを飲む機会は少ないけれど、こういうところではちょっぴり気取ってからりとグラスを傾けたい気分。「金田中」特製鶏手羽唐揚げや鮎のお寿司とともに「オールド・パー12年」を楽しんだあとは、いよいよおまちかねの狂言タイムへ。

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パーティー × 狂言という粋な試み「Kyogen Lounge」の発起人は大藏基誠さん。まず驚いたのは、彼のヘアスタイル。ソフトモヒカンというのだろうか、「規則のきびしそうな伝統芸能の世界で、その髪型だいじょうぶ??」といらぬ心配をしてしまった。

それはさておき、面白いのは、狂言をみやすくするための工夫。演目の内容や舞台の楽しみ方などを解説しているときの演者さん達は、軽快なトークでお客さんを笑わせ、お笑い芸人さんのよう。
それが、いざ演目がはじまると、人が変わったように狂言師の顔にかわる。 

瞬く間の20分。観終わったあとの一番の感想は、「狂言って、こんなに面白かったんだ!」

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まず感動したのは、能楽=堅苦しいというイメージを打ち壊し、裾野を広げようとする、その心意気。
じっさい私には効果抜群で、舞台があとには、すっかり狂言との距離は縮まっていた。 

あれ、この感覚、身に覚えがあるぞ。食の世界でも、最近同じ体験をしたばかりだ。

「神保町 傳」という日本料理店へ行ったときのこと。このお店は、独立後3年目でミシュランの星を獲得し、今年の「世界50ベストレストラン 」では「One to Watch Award(注目のレストラン賞)」にも選ばれた今勢いのあるお店。

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料理はおまかせコースのみ。2回転目の予約で21時からの予約にもかかわらず、楽しみすぎてお昼を抜いたので、お腹ぺこりん、いざ参らん! 

カウンターに座り、店主の長谷川さんと会話をたのしみながら過ごした3時間弱は、まさに言葉どおり、「驚きの連続」。一皿一皿出てくるたびに、「わあ」とか「きゃあ」とかいっていた気がする。 

そして一番の感想は、「日本料理って、こんなに面白かったんだ!」

なんというか、素材の組み合わせ方や調理法といった技術面だけでなく、ゲストを楽しませるアイディアがとにかく斬新で唯一無二なのだ。

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なぜ軍手と新聞が?それは来店しての、お楽しみ。 

しかし、私みたいな人ばかりではない。長谷川さんのチャレンジを素直に楽しめる人もいれば、「日本料理とはかくあるべき」と眉をひそめる人もいるらしい。
個人的には、なんとなく堅苦しいイメージのある日本料理をもっと気軽に楽しめるように、日々工夫をこらしゲストをもてなす努力は「すごい!」の一言。

実際、今これだけ注目されて外国のお客様も増えているお店だから、世界レベルで日本料理と「もてなしの心」を広める効果があるはず。

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伝統という既存の枠にとらわれず、新たな世界をつくりだすことでその魅力を伝える大倉さんと長谷川さんは、狂言師と料理人というジャンルを超えて、同じ志をもった現代のサムライみたいでかっこいい。 

賛否両論あれど、そのチャレンジを続けていってほしいし、そんな彼らを応援していきたい。

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