とにかく着物をたくさん欲しくて、リサイクルの着物を買いあさっていた時期があった。ようやくその熱も落ち着き、最近は、細部に目がいくようになった。
こだわるようになったのが帯締めだ。
どなただったが着物のおしゃれの達人が、「着物や帯はリサイクルでも、帯留めは新しい、良い物を身につければ、全体がスッキリまとまる」というようなことを仰っていたのを実感するようになったのが、「道明」の帯締めを締めてからである。
「道明」本店へはじめてお伺いしたのは2018年12月後半。ちょうど12月に発売になった『「道明」の組紐』を夜、寝る前にパラパラみていたら、もうどうにも居てもいられなくなった。翌日ちょうど日本橋で用事があったので、上野まで足を伸ばすことにした。
こじんまりとした店内には、帯締めがずらーり。先客がいらっしゃって、品定め中のご様子。私はその横で、アートを見るようにさまざまな組み方の帯締めを眺めていた。
*撮影許可済みです
クリスマス前だし、赤の帯締めが欲しくて、「赤の冠組(かんむりぐみ)を探しています」とお伝えすると、私の欲しかった赤蘇芳の色は売り切れ。
「うーん、ではお正月にぴったりなものはありますか」と伺うと、横にいらした方が、「それなら、これね」と迷わず取り出してくれたのが、こちら。「月白」。
(きゃー美しい!!)
お店の方ではなくお客さんに勧められたことに驚きつつも……
もう、幻想的なネーミングといい、この色合いのグラデーションといい、一目惚れしてしまった。これこそ和の伝統食を一本に詰め込んだような色味。
お正月にぴったりというのは、締めてみると片方が赤、もう片方が淡い色合いになるから(紅白)、祝い事にも使いやすいのだという。
オススメしてくれた方にお礼を述べ、「お着物はもう長くお召しになられているんですか?」と伺うと、なんと、そのお方は、家庭画報「きもの Salon」で30年以上にわたり編集者をされている方だったのだ。どうりで、ただならぬ玄人オーラが漂ってると思った!
はじめてのおつかいみたいに、ドキドキしながら足を踏み入れた道明で、いきなり雑誌のコーディネートもされているプロにお見立てしてもらえるなんて。こういうことはデパートの売り場ではないだろう。個人店で、直接ことばを交わしながら品定めする、昔ながらのスタイルならではの面白さ!
「月白」。美しい名前。美しい組紐。
みた瞬間に気に入り、「これにします」と即決した。お店に足を踏み入れてから、10分もたっていない。そして憧れの、あの道明のお箱に包んでもらっている時の嬉しさといったら。
着物好きの中には、道明しか買わない、という人もいると聞くけれど、納得だ。
道明の帯揚げは、中古でも出回っているけれど、小物があまりに古いとコーディネートがどことなく古ぼけて見えるという。それ以前に、中古でネットで安く手に入れたものと、自分でお店へ出向いて品定めして正規に買ったものでは、思い入れも違う。
当然、丁寧にお手入れして大切にしたくなるのは後者だろう。 正規の値段より安く買う、ということは一見得したように思うけど、本当にそうなのだろうか。
安く手軽に手に入れた代わりに、そのモノ自体や、それを売るプロフェッショナルへのリスペクトを失っていないだろうか?
「道明」での買い物は、ものの買い方について考えさせられるきっかけとなった。
衣替えのシーズンは、着物のお手入れをしつつ、手持ちの着物や帯を見直すシーズンでもある。目が肥えてないうちに買い漁ったものの中には、失敗もある。
質より量のシーズンはもう終わり。本当に心が踊るものだけを手元に残して、着物ライフを楽しみたい。
おまけ
その日きていたお着物。揃いの道行も合わせて数千円だった、黄八丈を染め返したであろうリサイクル着物。そのプロの方は、「可愛いわね。なんだか中学生の頃に来ていたような色柄で、懐かしさがこみ上げてくるわ」と言われてしまった。
苦笑。
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