Yarra Yering、変わるヤラ・ヴァレーのアイコンワイン

オーストラリアワインを中心に世界のファインワインを輸入するヴィレッジ・セラーズさん主催のセミナーにお声がけいただきました。Yarra Yering(ヤラ・イエリング)の女性醸造家サラ・クロウさんにたっぷりとお話を伺ってきました。


メルボルンから車で1時間近くのヤラ・ヴァレーは、オーストラリアのなかでもシャルドネやピノ・ノワールの銘醸地としてファンの多い産地。冷涼といわれるヤラ・ヴァレーが実は多様性に富んでいることは以前記事に書いたことがあります。

オーストラリア ワインの旅 その9 「ヤラ・ヴァレーは冷涼か?」

山からの冷たい空気が流れ込み”冷涼”なアッパー・ヤラ、乾燥して暑いヴァレー・フロア。
ヤラ・イエリングがあるのはアッパー・ヤラのなかでも、比較的暖かい場所。お隣にはコールドストリーム、ドメーヌ・シャンドンなどの有名ワイナリーもあるエリア。

ワイナリーの創設者ベイリー・カローダス博士は、オーストラリアワイン復興の立役者として名前が挙がる”伝説の人”。植物学者としての知識を生かし、2008年になくなるまで35年にわたりヤラ・イエリングを育ててきました。リリース当初は生産量の80%が輸出でしたが、今では国内での需要も上がり、輸出は20%のみ。

サラさんがワインメーカーに就任したのは2013年。ちなみに醸造家の選出はめずらしく公募だったようで、サラさんは高倍率を勝ち抜いて現在のポストに就いたそうです。「ヤラ・イエリングで働けるなんてラッキー」というサラさんもかなりの実力者。ハンターヴァレーでの12年でシラーズ、オレゴンでシャルドネとピノ・ノワール、ローヌではシラーというように世界各地で経験を積み、2017年には「ワインメーカーズ・オブ・ザ・イヤー」に選出されています。特にシラーズは1番のお気に入りで、シラーズの生産量が多いヤラ・イエリングでも経験を生かしながら手腕を発揮しています。

初ヴィンテージは1973年。28haの自社畑はすべて北向きの日当たりの良い斜面にあるためぶどうは熟し、霜の被害もないそう。雨はそこそこ多いそうですが、小石がごろつく古い痩せた土壌は水はけもよく、樹勢も抑えられます。無灌漑、低収量によりできるぶどうの凝縮感がワインの風味にとって重要だと考えており、ほとんどすべて手作業の少量生産です。

醸造面で驚いたのは、まず徹底したぶどうの選果。発酵槽に入れるまでの様子をビデオで見せてもらったのですが、この選別がかなり綿密。手づみしたぶどうがコンベアで運ばれる最中、発酵槽に入って欲しくない余計なもの(葉っぱやゴミなど)は、機械の振動によって容赦なく振り落とされます。


そしてヤラ・イエリングのスタイルを決める重要な要素は、赤ワインの仕込みに使う「ティーチェスト(茶箱)」と呼ばれる発酵槽。1973年から使ってきたこの茶箱発酵槽を使うことを、ワイナリーのオリジナリティとして大事にしています。最新設備がなかった当時にカローダス博士自身が設計したもので、中はステンレス製の1メートル四方の箱、外側は木で覆われています。500kg入る(ワイン2樽分)小さなもので、処理能力が遅い(8t/日)、場所を取るというデメリットはあるものの、それを上回る利点があるので、愛用しているそうです。
メリットとしては、ステンレスと木を組み合わせることによって、ステンレスの利便性(手入れがしやすい・温度管理しやすい等)と木の断熱性のいいとこ取りをできること。もうひとつ大きな利点は、小さな発酵槽がたくさんあることによって、ぶどう品種のブレンド違い・イースト違いなど様々なバージョンで挑戦ができるようになること。ローヌ・ブレンドの「Dry Red No.2」はシラーズにヴィオニエその他のブレンドですが、このブレンド比率もいくつもの茶箱で発酵した様々なワインの原酒をブレンドして最終的な比率を決めるそう。

また、酵母の違いによってワインの味わいが変わってくるものですが、酵母の使い分けも茶箱発酵槽で行なっています。天然酵母は基本的に白ワインのみに使用しますが、違う風味を出したいというときにたくさんの培養酵母を使い分けます。発酵槽が小さいので、色々な試みができるのです。
発酵が終わるとバスケットプレスで優しく圧搾し、重力によって樽に移したあとは、地下にあるセラーでゆっくりと熟成させていきます。


さて試飲です。

1. Dry White No.1 2014  ¥9,800(税抜き)
セミヨン75%、ソーヴィニヨンブラン25%
2.Chardonnay 2015  ¥9,800(税抜き)
シャルドネ100%

白ぶどうは足で踏んでからバスケットプレスへ。足で踏むのは、バスケットプレスでの圧搾はすごく優しいので、そのままプレスしても破砕できないからだそう。
セミヨンは香りと皮からのしぶみを少々加えるため3時間だけスキンコンタクトします。マンゴーやパッションフルーツの華やかな香り。かなり酸味が高いのですが、MLF由来のクリーミーさ、古樽によるなめらかな質感といいバランス。
シャルドネには新樽を30%を使っているので、たっぷりした果実味(シトラス〜白桃)にバニラ、ポップコーンなど香ばしい新樽由来の香りも加わりストラクチャーもしっかり。どちらも天然酵母による発酵。
サラさん、「セミヨンは白ぶどう品種のなかで熟成する数少ない品種。10−20年は問題なく瓶熟するし、熟成によってトースト香や蜂蜜の香りも出てくる」と。熟成したハンター・セミヨンもおもしろいですが、ヤラ・ヴァレーのセミヨンが熟成したらどうなるのか、気になります。

発酵温度はセミヨン、シャルドネともに18-24度。温度が高くなってくると冷却室にフォークリフトで樽を持っていくそうです。ちなみに収穫時期はシャルドネ→ピノ→セミヨン→シラーズ→カベルネ→トゥーリガナショナル。2月半ばから6-10週間。収穫時期が一気に被らないように、畑はきちんとデザインされています。

3. Yarra Yering Pinot Noir 2015  ¥9,800(税抜き)
赤ワインは、まずはサラさん醸造のピノ・ノワールから。熟した赤い果実がピュアに感じられるのですが、そのあとにハーブ、スパイス、ややヨードも感じてセイバリーな印象も!柔らかでピュアな果実味の秘訣は除梗機にもあるようで、茶箱発酵槽に入る前にぶどうにダメージを与えないため、ピノのために特別にデザインされた除梗機を使っています。ミディアムボディですが、淡く軽いピノというよりは、タンニンもやや感じられるストラクチャーのしっかりしたスタイル。余韻の長さが印象的。

このタンニンはぶどうのヘタからくるもので、ヤラ・イエリングでは除梗後のヘタを後から発酵槽に戻すテクニックを使っています。
「全房発酵とは違うのか?」という質問が飛んだのですが、サラさんが実験してみたところ、「全房だと、パレットのところで味は広がるが、どこかアグレッシブになってしまう。後からヘタを戻すやり方だと、繊細さが出る&余韻の長さに繋がっていくと感じた」そう。ヘタをまとめてかごに入れて発酵槽に投入すれば、「もう十分」と思ったらすぐ引き上げることができるコントロールのしやすさもメリット。

次の赤ワイン2種(シラーズ、ボルドーブレンド)の垂直試飲は、醸造家のスタイルの違い(サラさん、カローダス博士)がわかりやすい、興味深い試飲でした。



4.Dry Red No.2 2014  ¥9,800(税抜き)
5.Dry Red No.2 2004  ¥12,200(税抜き)

シラーズ95%以上にヴィオニエやマルサンヌなどをブレンドした、ローヌの影響を受けたワイン。サラさんはシラーズもピノと同じように、ヘタを後から戻す方法で作ります。

白ぶどうを混醸するのですが、果汁そのものではなく、圧搾後の皮と一緒に醸すことにより、繊細なタッチを加えることができるそうです。フェノリックスの多いマルサンヌは、舌の横に広がるような質感をプラスする効果があります。マタロ(ムールヴェドル)で香りとスパイシーさをプラス。
どちらも赤系の果実主体で、いかにもなオーストラリアのシラーズとは別物。サラさんの方はピュアな果実味を重視し、カローダス博士の方は、セイバリーさ(旨み)を重視するというスタイルの違いはあれ、エレガントな点では共通しています。カローダス博士のワインは、青いハーブに腐葉土やヨード、ランシオも少し感じられ熟成感バッチリ。タンニンもこなれていて、中華に合わせたいと思いました。アルコール度数が1%違いますが、サラさんは早めに収穫し(13%)、カローダス博士はしっかり熟してから収穫していたようです(14%)。

6.Dry Red No.1 2014  ¥9,800(税抜き)
CS 70%、メルロー15%、マルベック10%、プティヴェルドー5%
7.Dry Red No.1 2001  ¥12,200(税抜き)
CS 85%、メルロー10%、マルベック5%




生産者違いのボルドーブレンド比較。ブレンド比率もだいぶ違います。
2001年時点では、プティヴェルドーは若すぎたため使わなかったそう。

どちらもカベルネの比率が高いのですが、カベルネの個性はありつつも強すぎない綺麗なスタイルに驚きました。
「何かひとつのぶどう品種の特性が突出するのではなく、つぎ目なくスムーズに統一が取れるように作った」とサラさん。2014年は、はじめてサラさんがワインメーカーとして醸造した年。一番定評のある「Dry Red No.1」をつくる責任感に、かなり緊張したそうです。ヤラ・ヴァレーのカベルネは、高めの酸と柔らかいタンニンを持ち、よく熟成のが特徴で、セラーにある1970年代のワインは若木で作ったワインにもかかわらず、まだまだ素晴らしい状態と仰っていました。


サラさんとは昨年(2017年)11月に現地を取材した際にご一緒させていただいており、嬉しい再会。そのときに頂いた「Dry Red No.1」の1999年は、オーストラリアワインの熟成のポテンシャルを教えてくれた1本でした。
カローダス博士の意志をつぎつつ、自分のカラーを出しつつあるサラさんのワインはどんな熟成をしていくのでしょう。
興味深く、これからも追っていきたいと思いました。

輸入元:ヴィレッジ・セラーズ株式会社 0766-72-8680