言葉では伝えきれないエネルギー、フランツ・シュトロマイヤー

昨年末試飲会で出会って以来注目していたオーストリアの生産者「フランツ・シュトロマイヤー」。

輸入元のBMO(株)20周年の特別企画として生産者セミナーが開かれるというので、参加してきました。

(ばりっばりの自然派ワインの生産者なので、なんとなくそれをイメージして緑の着物、帯はぶどう。ぶどうのシーズンは秋ですが、私は仕事柄年中身に着けちゃいます)



真ん中がフランツ・シュトロマイヤーさんと、1stヴィンテージ(1989年)からワインを一緒に造っている奥さんのクリスティーヌさん。BMO代表の山田さん(一番左)はじめ、オーストリア在住のワインジャーナリストの岩城ゆかりさん(一番右)がゲストとして参加。 
同じテーブルには有名ライターさんやメディアの方もいらっしゃって、注目度の高さが窺えます。

ワインセミナーだと、ひととおり話をきいてから試飲、というスタイルが一般的ですが、「フランツのワインは五感でオーラを感じてもらいたい」(BMO山田さん)ということで、はじめから試飲しながら「畑」「醸造」「哲学」「環境」「食」の5つのテーマに沿って話を伺いました。

オーストリアの南東、西シュタイヤーマルクに位置するフランツ・シュトロマイヤー。

アルプスからの冷たい空気と高い標高により気候は冷涼。また、オーストリア南部は北部に比べ降水量も倍といいます。
西シュタイヤーマルクは、酸味の強いオーストリアのロゼ、Schilcher(シルヒャー) の生産で有名なところでもあります。

ヴァイス N° 7
参考価格:¥5,400(税別)


基本は涼しい気候とはいえ、南からくるサハラからの熱風の影響で暑くなることも。記録的に暑かった2015年と、逆に寒かった2014年をブレンドしたのが「ヴァイス」。一口飲んで、体中の血が騒ぐような、エネルギーを感じました……山田さんが「はじめて飲んだとき、電流が走った」というのも納得です。

ちなみに「ヴァイス N° 7」のナンバーの意味は、キュヴェを醸造した回数。造らない年があったり、年号をブレンドする年もあったりと、収穫年は関係ないつくりをしている(NV)ので、わかりやすいように印をつけているそうです。

有機栽培へのきっかけ

いまでは自然派ワインの生産者として有名なシュトロマイヤ—ですが、昔からそうだったわけではありません。
ぶどう造りをしていた父親のもと小さい頃から畑の手伝いをしていたフランツさん。もともと身体が丈夫な方ではありませんでしたが、農薬散布の作業のあとは、決まって数日頭痛や不調に悩まされていたそうです。 
2000年から5年ほどかけて有機栽培に切り替えてからは体調もよくなったそう。
同時に亜硫酸の量も減らし、2005年にはじめて亜硫酸ゼロへ。「大事なのは、身体にしみこむような感覚。エネルギーのあるワインは亜硫酸をいれないことによって、生まれる」といいます。

●「生物多様性」がエネルギーのもと

畑の話では、冬の剪定をいっさい行わないという点に驚きました。 
枝を切れば、傷から病気感染のリスクも増える。とにかく植物にストレスを与えないことが重要」という理由だそうですが、さらに「たくさん実がなれば、収穫分のほかに、自然に与えるぶどうの量も確保でき、いいバランスが保てる」という言葉に、シュトロマイヤーを理解する鍵が潜んでいると思いました。
冬の間に”不要”な枝を切り、ぶどうが色づく時期には”余計”な房を間引いて、残ったぶどうに栄養分を凝縮させるというのが栽培の基本。一方フランツさんの「自然に与えるぶどうの量を確保する」という言葉からは、”自然”を、いかに大きい存在としてとらえているかがわかります。シュトロマイヤーにとって”不要””余計”なぶどうなどなく、それも自然の一部だということなのでしょう。

ワインづくりの師匠は”自然”

一番の師匠は自然。自然が栽培のやり方を教えてくれるのではないか」「人間が手を加えずに、どこまで栽培できるか
畑の一部には10年前から不耕作の畑もあり、そこでは毎年実験的にぶどうの出来を観察しているそうです。ぶどうだけでなくりんご畑でも実験をしたところ、手をかけずに自然に成ったりんごは、ビタミンCが通常の10〜15倍という結果も出ているそう。 
薬やケアに頼りすぎると生命力が弱くなるのは人間も植物も一緒。強くたくましく育ったぶどうは、ワインのエネルギーにつながるといいます。
栄養豊富な土壌からは、ぶどうだけでなく畑からはビーツや芋など、野菜も収穫できるそうです(それが食卓にのぼることも)。その分ぶどうの収量は少なくなりますが、それもフランツさんのいう「バランス」なのでしょう。スケールが、大きい……。

ひとつの強い生命体が畑を支配するのでは、バランスを崩してしまう。たとえば病気にかかった葉と健全な葉、どちらも存在することが畑全体のバランスとして重要。ひとつひとつの生命体をリスペクトすることによって、畑が成り立っている
この「bio-diversity(生物多様性)」を尊重する考え方が、シュトロマイヤーのワインの根底にあったのです。

元祖オレンジワイン

さて話はオレンジワインの話にうつります。ウィーンでは「オレンジワインフェスティバル」なるものがあるくらい、オレンジワインが盛り上がっているオーストリア。オーストリアワイン事情に詳しいワインジャーナリストの岩城さんは、「ブームにのっただけの、質の悪いぶどうを使ったオレンジワインもあるなかで、フランツのオレンジワインは本物」だと太鼓判を押します。

ゾーネ N° 4
参考価格:¥8,600(税別)


「皮の持つ独特のアロマを引き出したい」と長期間皮と果汁を一緒に浸けるため、ワインはオレンジ色。

皮と漬け込む期間は4週間。十分長いマセラシオンだと思いますが、これはシュトロマイヤーのなかではあくまで軽いほう。
最後に特別ワインとして出てきた「ヴァイン デル シュティーレ(静けさのワインの意味)」は、なんと 全房で1年樽の中でマセラシオン、プレスしてからさらに1年樽熟成させるというもの。

(す、すごい……)

ヴァイン デル シュティーレ
参考価格:¥9,000(税別)


樽は使用しますが樽香をつけたいわけでなく、「新樽から5〜6年は樽が強めなので、それ以降ちょうど樽が落ち着いた頃がいい感じ」だそう。

強烈なオレンジワインのあとも、驚きのワインの連続でした。
「シルヒャー」と同じブラウワー・ヴィルトバッハーという品種から造られるロゼワイン。

カルミン N° 5
参考価格:¥5,800(税別)


ブラウワー・ヴィルトバッハーは酸がつよいぶどうなので、酸をまろやかにするためMLF発酵をしています。シルヒャーに限らずオーストリアの生産者はMLFをしない人が多いそうなので、その点でも革新的です。

そして赤2種類。


ロート N° 6
参考価格:¥5,400(税別)

インディゴ N° 1 (2013)
参考価格:¥8,600(税別)


(フランツさんから送ってもらった赤ワインの撹拌の様子です)

哲学は「ぶどうに、愛に、時」

最後に重要なのが、哲学。
どのワインにも、「Trauben, Liebe und Zeit 」=「ぶどうに、愛に、時」という言葉が記されています。 
ぶどうは自分たちにとって子供のようなもの。親が思い通りに教育するのではなく、個性を生みだせるように愛情と時間をかけて向き合うことが重要ではないか。手をかけすぎずにワイン自ら、秘めた可能性を発揮してくれるのを待つのが大事、とフランツさんは語ります。

ワインにとって、「時間」は大切な要素。10年がかりの畑での実験。ベストの”時”を待つ収穫。熟成にも時間がかかるし、開けてからもゆっくり楽しむことによって、最後の1滴まで違う表情をみせてくれます。せかせかした日常では、いかに時間を短縮するか、そればかり考えてしまうこともありますが、ゆっくり時間をかけて向き合うことの大切さを思い出させてくれる哲学の話でした。

さて、私のテイスティングコメントが一切ないことにお気づきでしょうか。
一応、細かいメモはとりました。でも、どのワインももちろんそうだと思うのですが、シュトロマイヤーのワインは、特に飲むタイミングによって印象が変わるワインだと感じました。 
私がセミナーで飲んだときの印象は、きっと変るだろうし、「酸がme+、 ボディが……」とテイスティングメモを伝えたところで、このワインの個性は伝わらない。
今回じっくりワインを試飲してみて、「五感でオーラを感じてもらいたい」というBMO山田さんの言葉の意味がよくわかりました。

月の満ち欠けなど宇宙のリズムに従って作業日を決めたり特別な調合材をまくこともあるビオディナミ栽培に懐疑的な人もいると思います。亜硫酸をゼロにすることによって、もしかしたら不安定で不健全なワインになるリスクも高まるかもしれません。
それでも、フランツさん、クリスティーヌさんが伝えようとする哲学が宿ったワインには、言葉をこえた人の心を動かす力があると思いました。
胸がどきどきして血が騒ぐようなエネルギーの塊のようなワインは、実際に体感してこそ、だと思います。


その後メールでやり取りしてて、美しい写真を送ってくれました(掲載許可済み)。




かわいい〜!!猫ののったワインは美味しいという伝説、オーストリアでもそうなのかな。
いつか訪れてみたいワイナリーがまたひとつ増えました。

(輸入元・BMO株式会社 http://www.naturalwine.jp/