沈んで、また浮上して

水面をすべるように優雅に泳ぐ白鳥も水面下では必死に水を掻くように、人も努力のあとを見せないほうがかっこいい。だけど私にはそれができずに、みにくくもがく過程を見せてしまうものだから、「頑張ってるね」「努力家だね」などと言われることがさいきん増えた。

実際は全く逆で、努力家でもないし、すぐに壁に当たって落ち込んでしまう弱い人間だ。だからちょっとしたことですぐに苦しくなる。家で悶々としていると負のスパイラルに陥って、「もうこのまま隠居しよう」と極端に自分を思いつめる。年明けからこのブログのプロフィール欄がからっぽになっていたのも、SNSのアカウントを停止していたのもそのためだ。もうひっそり人しれず、いきていくのだ……。

その壁はほかの人からすれば壁とは思わないほどきっと低くて、自分を客観的にみても、甘いなあと思う。そんなんで、いちいち「私はもうダメです」なんて言ってたら、やっていけないよ。
でも考えるほどじわじわ苦しくなって、ついにその泣き言を、編集者さんに漏らしてしまった。要約するなれば、「私はもうダメダメなので、もう他のかたを紹介させてください」。ダメ人間たる具体的な理由はここでは伏せるけれど、自分がこうありたいということが、全く自分でできていない。ならば達成するように努力するのが普通だろうに、それすらできそうもない。気概がない。もうないない尽くしだ。編集者さんだって、そんな私とずるずる仕事をしても迷惑だろう、と。

さすがにそのメールを送るのには勇気がいって、PCの前に座ったままなかなか送信ボタンが押せなかった。大好きな人に、私はあなたに釣り合わない人間だから別れましょう、というのと同じようなものだ。

それでも「ええい、ままよ」と勢いでボタンを押したあと、ひやひやとしながら数日間を過ごしたけれど、案の定返事が来なくて、(自分から言い出したのに)ああフラれたんだ、と思った。
そうだよね、代わりの人はいくらでもいるだろうし、そんな甘っちょろいことをいってる半人前のやつに用はない、ってきっと思う。私だって思うもん。諦めに似た、それでいて寂しくて、面白くもないのに笑いたくなるような気分だった。

5日後、もう半ば隠居生活を送っているところに、編集者さんからメールがあった。メールをみるのが怖くて、開けられないまま1日経った。とんでもない怒りのメール?ダメ出しのメール?どうしよう、これ以上落ち込んだら、朽ち果てすぎて、穏やかではいられないじゃないか……。
でも、開けないといけない。本当はワインをそんな風に飲んではいけないけれど、この時ばかりはワインの力を借りて、ホラー映画を指の間から見るようにメールを開封した。 
その内容をみるなり、文字が滲んだ。どう返事しようか迷っていました、とことわりを入れて、本当にすごく悩んだんだろうなあ、という、だけど思いやりと優しさのこもった肯定の言葉だった。長くも短くもないその文章は、私を浮上させるには十分だった。言葉は人を殺しもし、生かしもする。

ということで生かされた私は、無事に水面から顔を出して、なんとか今日もやっている。

ちなみに冒頭の白鳥のことわざ、どうやら嘘らしくて、そんなにもがいていないらしい。 
なーんだ。

写真はお正月に飲んだAYALA No.8。今年もおいしいワインがたくさん飲めますように!