マーケットでのちいさな出会い

きもの

伝統衣装を日常的に着る国で知られるのがミャンマーだ。男性も女性も6〜7割くらいは、ロンジーという巻きスカートを着用して歩いている。



ロンジーの上はシャツやブラウス、同じ布で誂えたトップスなどだが、このロンジーを身につけている女性が、ものすごく色っぽい。
足首まである布で身体を隠す代わりに、お尻から腰にかけてのラインが強調されて、思わずそこに目がいってしまう(完全におやじ目線)。振り返ってがっくりということも多いけれど……。

寸胴体型の多い日本人と比べ、東南アジアには、メリハリのあるスタイルの良い女性が多いように思う。日本には着物があるが、やはり伝統衣装は、その国の女性を一番美しく魅せるようにできている、とあらためて思うのだった。

私がミャンマーでやりたかったことのひとつが、このロンジーを手に入れることだった。
もちろん巻きスカートとして着用するためではなく、布地として欲しかった。

そこでロンジーが豊富に揃うというヤンゴン最大の市場、「ボージョーマーケット」に向かうことにした。ダウンタウンにほど近い便利な場所にあった。そこは東南アジアによくある巨大マーケット、という感じで特別に興味をそそるものではなかったが、ひとつひとつ見て回っていたら目移りして何も買えないくらい店の数が多く迷路のようだった。

右往左往している私たちに、22、3の若い男の子が日本語で話しかけてきた。見た目は少年のようで、名をスズキといった。
ときおり「彼女」を「彼」といったり間違いはあるものの、かなり日本語がうまい(アウンサンスーチーを、「good woman」といいたかったのだろう、「いい女」といったのには度肝を抜かれたが)。日本には3回来ているという。

たいてい市場で、日本語で話しかけてくる輩は詐欺か案内料をとるえせガイドだと思って信用しないのだが、連れがいるという安心感もあってか、「布を探しにきた」と口を滑らせ、相手に餌を与えてしまった。
スズキは、布ならいい店がある、と勝手にナビゲートしはじめ、私たちはのこのこ着いていった。マーケットは中央にいくほど値段が高い、などとスズキの解説を聞きながら到着した店は、地元民も横で次々と布を買っていく人気店のようで、熟慮の末、ロンジーを3枚購入した。



(横からは「スーチーも身につけたデザインなんだ」と誇らしげに薦めてくるスズキの声)

3枚で220$とかなり高額だったが、若い頃よくやっていた「マーケットでは提示された金額にあからさまに高い!という顔をして、最低でも半額から交渉を始める」という術を使うのは躊躇われた。 
私にはロンジーの相場がわからなかったし、もし高い価格でふっかけられていても、やみくもに値切るのではなく、自分が出す価値があると思った価格で買いたいと思った。

ロンジーを購入したあとは、スズキの働くアクセサリー店に連れて行かれ、買ってとは言われなかったけれど、御礼としてブレスレットをふたつ買った(高額なものではない)。スズキは自分の店に連れていきたくて、我々に声をかけたのだろうか?それとも日本人と話したかったのか。8割がた前者だとは思うけれど、それでも私たちは、ミャンマーの市場でたくましく生きる若い青年とのひとときを楽しんだのだった。

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