インタビュー:「Abysse」目黒浩太郎 | 僕が魚介フレンチを創るまで

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「Abysse(アビス)」=深海、奥深きもの。
外苑前駅から徒歩5分、住宅地にひっそり佇む隠れ家的な店内は、その名の通り海底のように仄暗い。そこにひとたび客が入れば、地上から光が差し込んだように場が明るくなり、「海の底」での宴が始まる。

思う存分肉が食べたい気分のときは、ここに来てはならない。なぜなら、「Abysse」はアミューズからメインディッシュまで魚を主役にしたスタイルを貫く、魚介専門フレンチだから。レストランのフルコースでは、メインで肉か魚を選べるのが一般的。メインで魚を選択すれば、自分で魚中心のコースを組み立てられるものの、そもそも魚介しか出さないフレンチは、日本ではもちろん、本場フランスでも珍しい。


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「Abysse」オーナー・シェフ 目黒浩太郎

オーナー・シェフは1985年生まれの若き料理人、目黒浩太郎さん。服部栄養専門学校を卒業後、都内数店舗のレストランで修行し、26歳で渡仏。マルセイユの三ツ星レストラン『Le Petit Nice(ル・プチニース)』で腕を磨く。帰国後「カンテサンス」で2年半岸田周三氏に師事。2015年3月に独立し、外苑前に「Abysse」をオープン。

魚介フレンチ誕生のきっかけ

魚介専門フレンチを出すきっかけは、フランスでの修業先「Le Petit Nice」時代にさかのぼる。そもそも、なぜ、修業先がマルセイユ「Le Petit Nice」だったのだろうか。

「フランスのレストランへオファーを出したとき、何件かOKを頂いた中で、先に返事があったのが、マルセイユにある『Le Petit Nice』だった」

この「偶然」が、目黒さんのキャリアを大きく左右する。「Le Petit Nice」は、魚介料理だけで三ツ星を獲得した店。そこで魚と向き合ううちに、「他の人にはできない魚介料理を作れる」「魚でやっていこう」と決意したという。

キャリアの選択

「30歳」は人生の1つの節目だと思う。20代で社会人経験を積み、ある程度の知識を増やし、ちょうど働き盛りの頃。30歳までに何かを成し遂げたいと考える人も多いだろう。目黒さんにも、「30歳で自分の店を出す」という確固たる目標があった。「Le Petit Nice」での修行をおえ、その後どうキャリアを築くか。

フランス時代、ミシェル・ブラス(自然から料理を創作する達人と名高く、21世紀のフランス料理界を代表する料理人)が初代料理長をつとめる、ノルマンディーの「Sa. Qua. Na.(サカナ)」に食べに行き、その魚介料理に感銘を受けた氏は、「Le Petit Nice」から「Sa. Qua. Na.」へうつり、魚介と向き合い続ける道も考えた。

日本に戻るか、フランスで働き続けるか。が、「30歳で店を出す」という目標を達成するためには日本で足場を固めることも重要と判断し、結果的に後者を選んだ。帰国後、東京のフレンチ3ツ星「カンテサンス」で2年半研鑽を積み、30歳になる直前、宣言通り、自らのお店をオープンした。

 

料理人への道

そもそも料理人を目指すようになったのは、家庭の影響が大きい。和食の料理人として新橋でお店を営む祖父の大きな背中を見て育つうち、いつしか料理人を志すようになったという。

「おじいちゃんのことが好きだったんですよ。料理している姿が、とてつもなくカッコよかった。」と嬉しそうに話す姿が印象的だ。

調理師学校に入るまでは、料理はほとんどしなかったというが、母親も栄養士であり、食が身近にある環境で育った目黒さんには、自然に食に対するセンスが備わっていったのだろう。

 

目指す料理人

「(「カンテサンス」の)岸田さんですね。岸田さんがいなかったら、今の僕は居ないので。岸田さんの『自由さ』や料理に対しての考え方、例えば素材の使い方であったり、今までフランス料理で当たり前とされていたことを省略する点などは、非常に勉強になりました。『自分が必要ないと思うことはやらなくていい、むしろやるべきではない』という考え方を、岸田さんの側で働くうちに自然と教わりました。『自分がなぜその仕事をしているのか』日々当たり前になっていることを見つめ直して、『本当に必要だと思うこと』をやるべきなんです」

「カンテサンス」で学んだことは、目黒さんの料理にもしっかりと反映されている。

「自分の料理を作る時に、『なぜこうするのか』という理由を明確にしたいし、とにかく人の真似をしないことが重要。オリジナリティがないと、これから東京でやっていく中で生き残っていけないと思う。自分で一から考えて料理を作りたい」と語る。

 

目黒さんの挑戦

料理人にとって、過去の修行先のレストランの影響は大きい。「カンテサンス」をはじめ世界的に有名なレストラン出身のシェフは、「○○出身の」という冠詞がつくのは、やむを得ない。

「今まで修行してきたレストランの料理と、どうしても似てくる部分があるのは仕方ない。その上で、自分が自信を持って創る料理じゃないと、お客様には伝わらない。『自分が絶対的に美味しいと思うもの』を常に出していないと、気持ちが悪い」

新鮮な素材が命であり、海の近くでないと難しい魚介料理。四方を海に囲まれた日本ならではの新しいフレンチの世界を、目黒さんは自らのお店で創り上げようとしている。シェフの挑戦は続きそうだ。

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そんな彼に、今回「日本ワインに合わせて料理を作ってほしい」と挑戦状を突きつけた。合わせるのは、「氷見の魚に合うワイン」を目指しワイン造りをしている富山「SAYS FARM(セイズファーム)」のワイン。

目黒さんは、「魚介に合うワイン」にどう向き合い、料理を組み立てていったのか。

Report : 魚介フレンチ「Abysse」×氷見ワイン「SAYS FARM」

Photo 

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Abysse
東京都港区南青山4-9-9 AOYAMA TMI 1F
☎03-6804-3846


(文・写真/水上彩)