飲む香水としてのワインーシャネルは赤道を越えて

ワインをたしなむときには香水は控えるのが、暗黙の大人のルール。 
「ワインは香りが命」といわれるほど、繊細な香りは尊く、その表現のしかたも多彩である。 
香水をつけてワインを飲むのは、ふたつの香水をブレンドするようなものだ。 

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1921年の発売から90年以上たってなお世界一有名な香水といえば、シャネルの「No.5(ニュメロ・サンク)」。
爆発的なヒットの要因は、時代の波に今までにない女性らしい香りがうけいれられたこと、無駄を省いた瓶のデザイン、何よりネーミングの巧みさがあげられる。
「No.5」の名前の由来は、試作品段階の小瓶につけられた番号。調合師がつくったサンプルのなかから、シャネルが選びとったものだ。
シャネル自身が”5″という数字を好んだこともあり、試作品番号がそのまま商品名に採用された。今では一般的なこの、番号を商品名につけるネーミングの仕方は、当時としては画期的なことだった。

そんなシャネルの起こした革命は、香水やクチュールの世界をこえて、いまの時代にすっかり根づいている。
シャネルの片鱗は、赤道をこえても健在だ。それを最近肌で感じたのが、オーストラリアでもっとも有名なワイナリーのひとつ、ペンフォールズのワイン。
ペンフォールズは知らなくても、「グランジ」といえば、ワイン愛好家ならば覚えがあるかもしれない。泣く子もだまる、1本10万円の同社のフラッグシップワインである。

いち庶民の私には手が出る価格ではなく、「いつかは飲んでみたいワインリスト」に名を連ねているのだが、先日訪れたオーストラリアワインの試飲会で、グランジに近いワインを試飲させていただく機会があった。

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グランジの熟成に用いた樽を使用していることから、グランジの香りをもつといわれ、人気の高い「BIN 389」・通称「ベビーグランジ」。

ペンフォールドのワインづくりの基本は、「スタイルと品質の一貫性」
毎年気候や条件が違うなか、一貫したスタイルを保つためには、一つの畑のブドウだけではなく、複数の畑のブドウからつくったワインをブレンドして調整する必要がある。
そのため、ペンフォールドの基本精神を表現したシリーズでは、南オーストラリアに点在する複数の畑からえりすぐりのブドウを別々に醸造したあと、ワインをブレンドする。

このとき、香水でいう、調合師の役割を担うのが、チーフワインメーカーである。
毎年ワインをブラインドでテイスティングし、各ワインのスタイルに合ったブレンドが決められる。

ブレンドの結果できあがったワインの樽は「BIN 1」「BIN2」…のように「BIN」の後にナンバーをつけて管理し、それが、そのままラベルに書かれた商品名となった。
管理のために便宜上使われていた”番号”は、商品名になることで、ブランドの顔となった。

そして根本のスタイルを保ちながら、少しずつ変革し発展し、次世代へと受け継いでいく…… 
ネーミングだけでない、シャネルとペンフォールズに共通するものがそこにはある。

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「寝る時には、シャネルの『No.5』をつけるの」byマリリン・モンローではないが、
「寝る前には、ペンフォールズの『BIN 389』を飲むの」こんな風にワインをまとうスターが現れてもおかしくない。 
なんていったって、ワインは、飲む香水なのだから。

【参考文献】
◆「シャネル 20世紀のスタイル」 秦早穂子(著)
シャネル 20世紀のスタイル

◆「獅子座の女シャネル」 ポール・モラン(著)・秦早穂子(訳)
獅子座の女シャネル