脱皮し続ける人

 
いつもお世話になっている美容師さんのサロンに通いはじめてかれこれ8、9年。帽子姿がトレードマークの彼だが、先日数ヶ月ぶりに髪を切りに行くと、なんだか雰囲気が違う。
 
あ、帽子がない!
「珍しいですね」思わず声をかけると
「よく言われます」といいながら、理由を話してくれた。

 

先日、オーナーとして店をオープンして10年を迎えたという。その10年という区切りが、仕事に対する姿勢を見直すきっかけになったそう。
以下、彼の話の要約。
 
美容師の仕事は、髪のお医者さんみたいなもので、お客さんによって処方箋が違う。
例えば私は左右で目の高さが違うのだが、それによって左右のカットのバランスも変わってくる。くせの強い髪質のお客さんだったら、少し伸びたときにどういう髪型になるのか、考慮しないといけない。ヘアカタログと同じ髪型にしようとしても、カットの方法は人によって違う。
 
はじめの頃は、頑張って頑張って練習して、ようやく合格点だったのが、
長年やっていると、そんなにしゃかりきに頑張らなくても、なんとかこなせるようになる。
美容師歴はかれこれ30年弱で、日に20人から30人の髪を触ってきた。
もうどんな骨格も、髪質も、毛流れのタイプも対応してきた。
今では、数メートル離れたところからお客さんの髪をみただけで、
どうカットすればその人によって一番最適なのか、もはや頭を触らなくてもわかるようになった。
 
10年を迎えて、ふと思ったのは、「これでは進化が止まってしまうぞ」ということ。だから、なぁなぁで日々を過ごさないために、何かひとつ毎日続けている習慣をやめてみよう。それも、自分に負荷がかかることを。
 
その美容師さんが帽子をかぶっていたのは、別にファッションのためではなく、自分の髪型をセットするのが苦手だったからだそうだ。
人の髪に興味はあっても、自分の髪型にはまったく興味がわかなかったそうなのだ。
それを、帽子をやめることによって、自分の髪型をセットする、という負荷を毎日自分に課す。
毎日の暮らしに何か変化をつけることで、次の10年に向けて自分を奮い立たせるために、そう決めたのだという。

 

「まぁ、次来たときは帽子かぶってるかもしれないけどね」と笑っていたけれど……
 
私の髪をカットする手を止めて熱弁する美容師さんを前に、「ああ、この人にお願いしていてよかった」とじーんとした。自分の仕事に誇りを持ち、人から見たら「もう十分突き詰めている」と思っても、歩みを止めないところを尊敬した。

 

サロンの名は「Cocoon」ー脱皮をする、殻を破るという意味。お客さんが新しいヘアスタイルによって殻を破るお手伝いをするだけでなく、カットするその人も脱皮し続ける場所。表参道という激戦区で10年続けるのは並大抵のことではないだろう。ファンも多いはずだ、と納得したのだった。
 
 
もうすぐ令和。平成という、これまでの人生のほとんどを過ごした時代が終わる。うーん、なんだかさみしいような、実感がわかないような……。

 

年号が変わったからといって、すぐに何かが大きく変わるというわけではないだろうし、変化というのはあとから気づくものだったりする。
 
それでも新しい時代というのはなんだかわくわくする。
大きな波に乗って、脱皮し続けられる人でありますように。
 
 
「平成最後」のシャンパンはやっぱりAYALAでした。