魚介フレンチ「Abysse」×氷見ワイン「SAYS FARM」イベントレポート

食・ワイン

「ワインは敷居が高いもの」という認識が根強いなかで、日本ワインはいい意味でカジュアルな存在だ。地元のひとが一升瓶ワインを湯呑みで飲むように、気取らずゆるりと飲めるのが良いところ。そんな「日常」の存在にガストロノミックな「ハレ」の料理を合わせることは、一般的ではないかもしれない。


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魚介フレンチ×氷見の魚に合うワイン
 

今回、<美食×日本ワイン>という試みの初舞台となったのは、魚介専門のモダン・フレンチ「Abysse」。2015年3月に南青山にオープンしたばかりだが、早くも感度の高いグルマン達の注目を集めている新進気鋭のお店だ。オーナー・シェフの目黒さんは、フランスのマルセイユで修行し、帰国後、ミシュラン三ツ星「Quintessence」で腕に磨きをかけた若手実力者。

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Special Interviewはこちら>>『僕が魚介フレンチを創るまでー「Abysse」目黒浩太郎』


SAYS FARM(セイズファーム)
目黒さんの魚介料理に合わせるのは、富山の氷見にあるSAYS FARM(セイズファーム)の6種類のワイン。セイズファームは、もとは釣屋魚問屋から生まれた。100%自社栽培・醸造にこだわる「ドメーヌ」として、「自分たちが獲った魚に合うワイン」「この土地でしか出来ないワイン」を目指してワインを造っている。
氷見といえば、ブリをはじめ魚介の宝庫。海の幸に特化したフレンチと、海に近い土地のワインが出会ったら、どのような化学反応が起きるのか。

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◆SAYS FARM CIDRE 2013
×「焼きハマグリ」「富山県産シロエビとライチ ルバーブ」

まずはシャンパーニュで乾杯……ではなく、富山県産のふじ100%で造ったシードルで乾杯。細やかな泡が勢い良く立ち昇る。すっきり辛口で、お風呂上がりに家で開けたら、ひとり1本は飲めそうだ。

実は、富山は青森、長野に続く全国3位のりんごの名産地。規格外や傷のついたりんごの有効活用法として県がシードル造りを後押ししている。

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シードルに合わせて2品。まずは、ビスクに卵を加え、球状に焼き上げたアミューズ。通常営業ではオマール海老のビスクを使うが、今回は蛤にアレンジしたそう。噛み込んだ途端に膨らむ蛤香の美しさに、思わず驚かされた一品だ。 

「シードルを飲んだ時に、日本酒のような和のニュアンスを感じたんです。そこから、貝と合うと思いました。蛤のジュをとった後に、蛤の身を煮出し、ミキサーにかけて蛤のエキスを作ります。それを卵と合わせて焼き上げました」

 

次に、「富山県産シロエビとライチ ルバーブ」。

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「冷たい前菜は、赤かぶと白海老、ライチをタルタル状にしたもの。今の季節にしか入らない台湾産のフレッシュなライチを使いました。ライチを剥いたときの見た目が、ボタン海老のようだったんです。一目で、ぜったい海老に合うだろうと思いました」

目黒さんのインスピレーションから生まれた自信作は、様々な食感の対比の中で楽しむ旨味の錯綜感がたまらない。シードルの爽やかな果実味も綺麗に寄り添い、造り手たちの思いが見事にひとつに繋がっていた。 

◆OJICO CHARDONNAY 2013
 ×「新潟県産イナダのヴァプール ニンニクのブイヨン」

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セイズファームのモットーは、「氷見の魚に合うワイン」。「土地の酒には土地の食材を」と、目黒さんは富山や日本海の食材に着目。ブリが有名な氷見だが、旬はまだ少し先なので、代わりにブリの2つ手前のイナダを料理に使った(ブリは、ワカシ→イナダ→ワラサ→ブリと流れる出世魚)。 

合わせたOJICO CHARDONNAYは、セイズファームのフラッグシップのシャルドネの弟分(OJICO=地元の方言で「弟」という意味)。「氷見の独特なテロワールを素直に感じられる」ように、ステンレスタンク熟成で仕上げたそう。「MATCH」のCMの広瀬すずみたいに、爽やかでクリーンな印象。海の近くのテラスで飲んでみたい。

そんな「OJICO」の清々しい透明感と、舌の上で蕩け消えるイナダのヴァプールの繊細さは、もう感動の組み合わせ。日本海の風土を投影したような美味の形に、ダイニングには感嘆の声が漏れていた。 

OJICO(弟)に続き、次はいよいよフラッグシップのシャルドネだ。 
 

◆CHARDONNAY 2013
 ×「富山県産ホタルイカ 白レバーとフォアグラ」

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2つめの前菜は、まるでお肉の煮込みのように濃厚なひと皿。ベジタリアン向けのグルテンミート(小麦に含まれるタンパク質でできた、肉もどきの加工食品)を食べて「言われなければ、肉みたい!」と驚いたことがあるが、まさにこれはそんな感じ。魚介らしからぬ味わいの力強さと余韻の長さに浸っていると、「肉がなくても生きていけそう」なんて気分にもさせてくれる。

続くシャルドネは、自社畑の中でも特に良質なブドウのみを厳選して造った自慢作。香ばしい樽香と丸みのあるふくよかなボディを持ち、ゆっくり時間をかけて楽しめば、後半みごとに花開く。パンチ力あるホタルイカを巧みに受け止め、綺麗に自分の良さも合わせていく……そんな懐の深さに驚かされた。

 

◆MERLOT 2013
 ×「スープ・ド・ポワソン」

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「味わい深く優しい日本のメルローに合わせるのは、魚介のスープとあらかじめ決めていた」そう。10種類もの魚介類を使って出汁を取ったスープ・ド・ポワソンは、目黒さんのスペシャリテ。

氷見のメルローの明るい骨太さは、スープ・ド・ポワソンの濃厚な旨味に間違いのない組み合わせ。でも、ヨーロッパやニューワールドのワインでは少しばかり強すぎて、こう上手くはいかないかも。日本ワインだからこその利点や美味しさや楽しさは、こういう所に感じられるのだ。

 

◆SAUVIGNON BLANC 2014
 ×「長崎県産ノドグロのロースト 白醤油とレモンのソース」

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メインに白ワインを持ってくるのが、「Abysse」流。
セイズファーム栽培醸造責任者の田向俊さんが「2014は天候的にも過去最良の年」という通り、SAUVIGNON BLANC 2014は、澄んだ清涼感、綺麗な酸と凛としたミネラルが印象的。

ノドグロのローストは、ほんのりピンクに染まり、恋する乙女の頬のよう。目黒さんの魚の火入れは絶妙だ。アクセントは、レモンをきかせた白醤油のソース。白醤油は、通常フレンチにはタブーらしいが、あえて使うのは日本ならでは。新鮮さと郷愁が入り交じる美味の様相に、日本発ガストロノミーの可能性を感じた瞬間だった。

 

◆CABERNET SAUVIGNON 2013
 ×「フロマージュ2種」

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セイズファームの赤ワインの造りは、「凝縮された」というよりは「味わい深い」。
氷見の食材に合わせるため、カベルネのようにタンニンの強い葡萄種でも、あえて柔らかさが出るよう造っている。

「日本の食材に日本のワインを合わせる」という今回の趣旨をくみ、チーズも国産で揃えた。
青カビは、北海道の「ニ世古 空【ku:】」と長野の「森のチーズ」。どちらもいい意味で「国産のチーズ」らしく、でしゃばらない。三歩下がって歩く貞淑な妻のように、優しいカベルネに綺麗に寄り添う。

6種のワインを堪能した後は、「別腹」の時間へ。
 

Avant Dessert 「バニラのパンナコッタとマンゴー」

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Dessert 「熱々のチョコレート・ムース」

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 小菓子 食後のお飲物

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おなか、満腹寺。

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今回印象に残ったのは、やはり土地のもの同士を合わせることの面白さ。世界の美食ランキング『The World’s 50 Best Restaurants』でこれまでに4度1位を獲得しているデンマーク「NOMA」のシェフ、レネ・レゼピが「日本は食材から哲学的な意味さえも感じる」といい、1ヶ月期間限定の海外出店先を日本に決めたように、日本の食材の豊富さは世界でも群を抜く。そんな国でガストロノミーを追求すれば、当然、日本の良さを活かしたものになるだろう。飲むお酒も、必ずしも「本場」に従う必要はなく、自由に遊べる楽しみがある。

ワインも料理もマリアージュによって、変幻自在。日本の食の最前線であるガストロノミーと日本ワインの接点をみつけ、うまく組み合わせることで、日本ワインはもっと輝くだろう。


AbysseAbysse
東京都港区南青山4-9-9 AOYAMA TMI 1F
☎03-6804-3846

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SAYS FARM
北陸新幹線が開通し、より身近になった富山。ワイナリーの敷地内にはファームで採れた食材を使ったレストランとショップ・ギャラリー、その横には1日1組限定で予約可能な一棟貸しの宿泊施設がある。「日本一お洒落なワイナリー」に小旅行してみるのも楽しい。


(文・写真/水上 彩)

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